ことばを知らない生きものがいた。浜辺でごろんと横になり海をじっと見つめたり、時には小石を放りなげてみたり。のんびり気ままに暮らしていた。
「たのしい」気持ちになった時には、腕をのばし鳥のようにパタパタし、「おいしい」ものを食べた時は、うしろむきにくるりと三回宙返り。けれどそれをことばで何というのかは知らない。心に冷たい風が吹きぬけ、どうしたらいいのかわからなくなった時、顔をゆがめてただ苦しそうに唸っている。この気持ちを何というかだって、ことばにできないのだ。
ある日、その様子を見ている生きものがいた。ことばを知っている生きものだ。
「かなしい ことが あるんだ」
すぐにわかったその生きものは、ことばを知らない生きものに近づいていき……。
イギリスの高名な詩人ジョン・エガードと絵本作家きたむらさとしによるコラボレーションで生まれた、「ことばのない世界」と「ことばのある世界」で暮らす生きものの、出会いの物語。それぞれのんびり気ままに暮らしていた二人が、最初に心を通わせることのできた「ことば」とは?
自分の気持ちをことばで伝えあい、ことばが多すぎる時はただ黙ってそばにいる。誰かとわかりあえるって、こんなにも素敵なことなんだ! 二人で一緒に過ごす時間を見ながら、誰もがそう思うことででしょう。「ことば」について、感情表現について、そしてコミュニケーションについて。色々な考えを広げていってくれそうな一冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
続きを読む