「ぼくはどこにでもいるふつうの子
ぼくにしかできないこと
ぼくにしかないすごいところ
そんなのひとつも見つからない」
鎧のような皮膚を持つサイを、「かっこいい」とうらやむ男の子。
ところがサイは、
「とんでもない!」
鎧のような皮膚には、思わぬ苦労がつきまとうようで……。
サイはぴょんぴょんとはねまわることのできるウサギこそうらやましいと言いますが、ウサギはやっぱり、
「とんでもない!」
クジラにライオン、鳥やキリン―
みんなそれぞれうらやましがられることがあって、でも、それはそれでみんな大変。
動物たちの、あまりにも人間臭い表情が、どこか哀しくも可愛らしい一冊。
彼らが切なげなまなざしでグチをこぼし、他人をうらやむ様がなんともコミカルです。
ふと、軽快に海をゆくイルカや、のんびり笹を食べるパンダを思い描いて、
「彼らにもきっと彼らにしかわからない悩みがあるにちがいない」
思わずそんな、おかしな想像がふくらみます。
他の人の立場になって、自分から見えない部分、知らない部分を思い描く。
大人でもむずかしいことですが、そのことを楽しみながら自然に教えてくれる作品です。
反対に、「人から見たら自分のどういう部分がうらやましがられるだろう?」この作品を通してそんなふうに話し合ってみるのも、興味深い経験になるかもしれません。
裏表紙に描かれているのは、物語に登場した動物たちの日常の一コマ。
本を読み終えてから、あらためてそれを眺めてみてください。
彼らの行為の意味がわかって、とっても愛おしい気持ちになれますよ。
(堀井拓馬 小説家)
続きを読む